この授業では、原状回復ガイドラインがわかります。そのうえで、敷金から引ける費用と引けない費用を、国の資料で確認します。
朝のホームルーム|原状回復ガイドラインって?
三岡新入生が、教室の戸口で止まった。しかも、ぶかぶかのブレザーの袖から、紙が1枚はみ出している。
「退去の見積書です。壁紙の張り替えで、たとえば12万円。ひぇっ、それ、月いくらからですか?」
「一括です」と村野教頭が出席簿から顔を上げた。すると、三岡の体が、ぷくっとふくらむ(ふくらみ1回)。「『原状回復ガイドライン 敷金』で調べたら、国の資料が出たんです。でも、読めなくて」
つまり、賃貸暮らしの1年目には、いつか自分が払う話です。たとえば敷金10万円を預けて、戻るのが7万円か0円か。その差は、原状回復ガイドラインのルールを知っているかで変わります。
原状回復と敷金
古びる分は貸主、傷つけた分は借主
の例
1敷金が戻る額の考え方
10万円
3万円
2だれの負担になる?
- 家具の設置によるへこみ・跡
- テレビ裏の黒ずみ(電気ヤケ)
- 次の入居者のための畳の表替え
- 引越作業で付けたひっかきキズ
- タバコのヤニ・臭い
- 結露を放置して広がったカビ
3数字で覚える
4部位ごとの年数の考え方
| 部位 | 年数の考え方 |
|---|---|
| 壁紙・カーペット | 6年で残存価値が1円 |
| 畳表・襖紙・障子紙 | 年数は考えない |
| フローリングの部分補修 | 年数は考えない |
| フローリングの全面張替 | 建物の耐用年数で計算 |
5借主負担の特約に要る3条件
- 必要性と合理性がある
- 借主が義務を負うと認識している
- 借主が負担する意思を示している
授業:原状回復ガイドラインと敷金
さて、村野教頭が黒板に3つ書いた。「まず、要点は3つです。国土交通省のガイドラインと、民法がもとになります」
要点1 原状回復ガイドライン|戻すのは「借りた日の姿」ではない
国土交通省の「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン」は、1998年3月にまとめられ、2004年2月と2011年8月に改訂されました(2026年10月25日確認)。原状回復ガイドラインに法的な拘束力はなく、契約のときの参考にする資料です。
つまり、ここでいう原状回復は、借主の故意・過失、善管注意義務違反(ふつう払うべき注意を欠くこと)、通常の使用を超える使い方による傷みを直すことです。また、民法621条も、通常の使用で生じた損耗と経年変化は除いています。
要点2 古びる分は貸主、傷つけた分は借主
下の図のように、原状回復ガイドラインは、ふつうに暮らしても出る傷みは貸主の負担、使い方次第で出る傷みは借主の負担になりうる、と例を挙げています。

アイビー先生が割烹着の袖をまくった。「電気ヤケは家賃のうちじゃ。空室までは掃除できんがの。だから、ご飯は食べなさい」
「ヤニは借主なんですね……」三岡がまたふくらむ(ふくらみ2回)。「しかも、結露のカビも、ほっとくと借主側だそうです」
要点3 原状回復ガイドライン|古いほど、借主の負担は小さくなる
まず、壁紙もカーペットも、6年で残存価値(まだ残っている値打ち)が1円になる直線を考えて、負担割合を決めます。ただし、実際には、住んだ年数で数えます。たとえば、入居のとき新品同様の壁紙なら、6年住むと、壁紙そのものの値打ちにあたる借主の負担割合は下限の1円になります。ただし、年数がたっていても、借主の使い方が悪くて傷めた場合は、張り替えの工事に伴う負担が出ることがあります。
また、畳表、襖紙、障子紙は消耗品に近いので、年数は考えません。仮に、借主が傷つけたなら、その補修費は借主の負担です。

図のとおり、壁紙とカーペットは6年で計算し、畳表・襖紙・障子紙とフローリングの部分補修は年数を考えません。一方、フローリングの全面張り替えだけ、建物の耐用年数で計算します。また、退去費用の見積書を読むときの考え方は、別の解説記事でも詳しく書かれています。
見積書は金額だけでなく、作業の範囲、金額と税の扱い、納期と支払条件、有効期限を確かめる。「一式」「別途」は内訳を文章で確認する。
参考:外注の見積書の見かたと確認項目を質問と答えで整理
敷金は「預かり金」
民法622条の2では、敷金は賃料などの支払いを担保するために、借主が貸主に渡すお金です。つまり、賃貸借が終わって部屋が返ってきたら、貸主は敷金から借主の未払い分を引いた残りを返します。

引ける「借主が負担する分」は、ここまでの話で決まります。ただし、契約書に特約(特別な約束)があるときは話が変わります。
村野教頭が声をひそめた。「たとえば、『退去時の費用は全額借主』のような一文は、要注意です。うまい話のにおいは、だいたい分かります。だいたい」
通常損耗まで借主負担にする特約には、原状回復ガイドラインが3つの条件を挙げています。必要性と合理性があること、借主が義務を負うと認識していること、借主が負担する意思を示していること。つまり、満たさないと、効力を争われます。
また、入居時と退去時には、貸主と借主が立ち会ってチェックリストで確認することが必要とされ、写真などで残すことも大切とされています。なお、細かい契約や税金の判断は、弁護士や税理士などの専門家に確認してください。
小テスト|原状回復ガイドラインの確認
問題。入居3年。家具を置いていた床に、へこみと跡が残りました。ガイドラインの考え方で、近いものはどれ?
- A 床の張り替え代は、全額が借主負担
- B 家具の設置による跡は通常の使用の範囲で、貸主が負担する側
- C 跡があるので、敷金は1円も戻らない
答えはBです。なぜなら、ガイドラインは、家具の設置による床やカーペットのへこみ、設置跡を、貸主が負担する例に挙げています。
今日の宿題|原状回復ガイドラインの文字を探す
いま住んでいる部屋の賃貸借契約書を開き、「原状回復」と「特約」の文字に線を引いてみましょう。ただ、見つからなければ、管理会社の連絡先をメモするだけで合格です。
校長のひとこと
シーラカンス校長は授業のあいだ、ずっと寝ていた。最後に片目だけ開く。「……だから、入るときの写真は、出るときの味方じゃ。ぐう」
放課後・購買部
購買部のマネッコ先輩「へい、らっしゃい!今日のパンは仕入れ中でやんす。そのため、準備中ですので、少々お待ちを」
教頭の補習(希望者だけ) もっと突っ込んで知りたい人へ。ウハウハ高等学校には、月額1,000円の有料オンラインコミュニティがあります。最新情報の配信、チャットでの質問、会員同士の交流ができます。入りたい人だけ、入学案内をのぞいてください。コラムは、これからもずっと無料で読めます。
次回予告
次の教室はピカピカ発電所科です。ヘルメット姿のムコブカ主任が、屋根の上の電気の話を始めます。しかも、作業着の袖は、少し焦げています。
出典と確認日
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドライン(再改訂版)」:https://www.mlit.go.jp/common/000991391.pdf
- 国土交通省「原状回復をめぐるトラブルとガイドラインについて」:https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/jutakukentiku_house_tk3_000020.html
- e-Gov法令検索「民法」第621条・第622条の2:https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089
- 確認日:2026年10月25日
この記事は学習用の情報で、契約や投資の勧誘や助言ではありません。契約や投資の判断はご自身でお願いします。先生や生徒の名前はフィクションで、実在の企業・団体・人物とは関係ありません。
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